森みわ氏コラム【パッシブハウス×窓】3一覧へもどる


建築家の森みわ氏は2009年より拠点をヨーロッパから日本へ移し、
日本の気候風土に合わせた建築デザインと省エネルギー性能の融合を目指して現在も幅広く活躍中です。
第1冊目の著書、”世界基準の「いい家」を建てる(PHP出版)”は発売1年目に7000部が完売となる程、森みわ氏のヨーロッパ仕込みの省エネへのアプローチは日本の建築業界の大きな関心を集めました。
一般社団法人パッシブハウス・ジャパンの代表理事を務める森みわ氏は
日本在住で唯一の独パッシブハウス研究所の付与するパッシブハウス・デザイナーの資格を有し、デザイナーの目線でこれからの日本の省エネ住宅のあり方についてお話いただきます。

 

【第三話】そして窓の選び方

新築よりも省エネ改修?

もう家を建ててしまってローンを返済中の方は、今更エコハウスの話など、聞きたく無いかも知れません。今現在そもそも家を建てる気が無い方にも、興味の無い話でしょう。
そこで省エネ改修のお話を少ししてみたいと思います。
新築を建てることなしに快適で健康なエコライフを手に入れることが出来たら、実はそれが一番良いのではないでしょうか?私の自宅も実は賃貸住宅ですが、数年前に大家さんとの話し合いの元、借り手負担で大規模改修を行いました。私は大家さんと10年間の定期借家契約を結び、改修後の現状を“新しい現状“と定義、契約書の特記事項に盛り込まれました。私が劇的に改善させた建物の温熱性能とその中での暮らし方に魅力を感じた大家さんは、今から7年後に私が現状復帰無しで退去するのを楽しみに待っており、それまで私は、建物の固定資産税に毛が生えたような家賃を払い続ける約束です。
写真:森自邸(借家)。賃貸ながら太陽熱と薪ストーブの暮らしを満喫出来る!)

 

 

 

まず“窓リフォーム”から。これが快適生活のポイント!

このような素晴らしい大家さんとの出会いが叶うと、1000万円超えるリフォームも実現性を帯びてきますが、通常の家賃を負担しながらの改修となると、改修にかけられる費用はおそらく300万円程度でしょうか。
限られた予算で賃貸をリフォームする場合、まず最初に内装や水回りに手を出しがちですが、私はやはり窓のリフォームからお勧めしたいです
冬の省エネのための高断熱サッシの採用と、夏の省エネのための外付けブラインド(スダレでもOK!)の採用で、直ぐに光熱費が下がるだけでなく、暮らしの快適性がグンとアップ。窓が変わればあなたのライフスタイルは劇的に変化する可能性を秘めています。
窓のリフォーム、真剣に検討してみていただけませんか?
水回りや内装のリフォームはその後にゆっくりと考えていただければと思います。

中途半端な“樹脂”が一番!

しかしどんな窓を選んだらよいのでしょうか?アルミサッシは流石にNG?樹脂サッシは断熱性能が高いの?木製は一体どうなんでしょう?ここで窓枠に用いられる典型的な3つの素材(アルミ、木、樹脂)の特徴を建築家目線で分析してみたいと思います。

まず、アルミは建築用建材として大変魅力的な素材ですが、熱を通すのがとても得意なので、省エネが必須となった今、単体で窓枠に使うことはタブーです。ヨーロッパの殆どの国ではアルミ単体での使用が禁止されています。耐久性に関しては、3つの素材の中で断トツに優れているのですが・・。

木製の窓枠は適切なメンテナンスが必須ですが、ソリッドな断面で窓枠形状にしただけでも非常に高い断熱性能を発揮します。内装材としても一番人気な素材ですが、アルミ枠のように大量生産では無いため、価格が高めです。

最後に樹脂サッシ。窓は内装仕上げ材でもあるし、外装仕上げ材でもある訳ですから、誰が好き好んでプラスチックの窓なんて使うかと建築家は思います。しかし、内部に幾つもの中空層を設けた樹脂窓枠は、大量生産のアルミサッシ同等のコストパフォーマンスと、木製サッシに匹敵する断熱性能を備えており、耐久性に関しては木製サッシとアルミサッシの中間の位置づけといったところでしょうか?
素材としての魅力は建築家にとってはゼロ。なんだか一番中途半端な立ち位置ですが、とにかくローコストで窓の断熱性能を担保しようとすると、樹脂窓を選択する事になるはずです。

省エネの観点から市場で淘汰されそうになった戦後のアルミサッシですが、その耐久性の高さと素材の圧倒的な魅力から、近年は木製サッシや樹脂サッシの“外装材“として、“アルミ・クラッド(アルミを纏うの意)“の役割を担うようになりました。
ようするに、これまでのようなアルミか木か樹脂かという素材の3択の時代は終わりを告げ、3素材がそれぞれ得意とする役割を分担する複合窓が登場したという訳です。

 

▽コラム第4回はこちら▽

森みわ氏 第4回 パッシブハウス×窓