森みわ氏コラム【パッシブハウス×窓】4一覧へもどる


建築家の森みわ氏は2009年より拠点をヨーロッパから日本へ移し、
日本の気候風土に合わせた建築デザインと省エネルギー性能の融合を目指して現在も幅広く活躍中です。
第1冊目の著書、”世界基準の「いい家」を建てる(PHP出版)”は発売1年目に7000部が完売となる程、森みわ氏のヨーロッパ仕込みの省エネへのアプローチは日本の建築業界の大きな関心を集めました。
一般社団法人パッシブハウス・ジャパンの代表理事を務める森みわ氏は
日本在住で唯一の独パッシブハウス研究所の付与するパッシブハウス・デザイナーの資格を有し、デザイナーの目線でこれからの日本の省エネ住宅のあり方についてお話いただきます。

 

【第四話】省エネ先進国ドイツと日本はどこが違う?

日本の“エゴハウス”志向

窓の省エネ性能は家全体の省エネ性能と快適性、そして温熱のバリアフリーの鍵を握る、とても重要な要素です。

最近はドイツの建材展に行かれる程省エネに勉強熱心な設計事務所や工務店も増えてきまして、皆さんドイツから戻られると興奮気味で、“ヨーロッパの主流はU値=0.8W/m2K以下の窓だ!日本の事情とはまるで違う!日本でもこういう窓を開発してもらわなくちゃ!”なんておっしゃる方が多いのですが・・・。確かに日本の市場で出荷されている窓のU値は平均で4.6W/m2K程度。なんと1971年のドイツで出荷された窓の平均U値3.85W/m2Kを下回るレベルなんです。両国の気象条件の違いを考慮しても、これは凄まじいほど立ち遅れています。しかし日本とドイツ、もっと根本的に違うところがあることを私は皆さんに知って欲しいと思います。
何が違うのでしょうか?私が思うに、ドイツを始めとする省エネ先進国の人々には、消費者と実務者の意識。“地球環境と将来の子供達のために、良いものを評価しよう、採用しようという”気持ちが一般の方に強く、真のエコ建材が意欲的に開発され普及する土壌があります。
一方の日本はどうかというと、どちらかというと“不具合があったら必ず保障してもらえる体制なのか?”、“初期投資するからにはお財布メリットはどれほどなのか?”という、自らの取得した不動産の資産価値を落としたくない、損したくないという気持ちばかりが先行して、エコハウスとは見せかけの、“エゴハウス“志向が蔓延しています。これでは良いものを作ろうとするメーカーが可愛そうですね。にもかかわらず、ヨーロッパ事情を知るや否や、”日本のメーカーが良いものを作らないから悪い”とメーカーに責任転嫁する訳ですから、本当に困りものです。“早くU値=1.0W/m2Kを切る窓を作れ!”とメーカーの営業マンを脅している工務店さんを見つけると私は何時も尋ねます。“あなたがお施主さんに提案している家の外壁には、本当にそんなに高性能の窓が必要なのですか?”と。要するに、そんなに高性能な窓を求めるということは、当然、外壁や屋根、床等の断熱・気密は最大限施されたのですよね?という確認です。例えば料理が下手な人が、“私の料理はあのイタリアの最高級オリーブオイルが入手困難だからB級なんだ!”なんて開き直っていたら笑われるのと同じです。省エネ設計では料理と同じように、沢山の要素をバランスよく配合して総合パフォーマンスとしてまとめ上げていく技術と経験値が求められます。パーツの寄せ集めやてんこ盛りではコストパフォーマンスも上がらず、省エネ住宅が本領を発揮しない事もあり、残念な結果になりかねません。

 

 

エネルギー効率がアップする“窓”

真の省エネ設計はテーラーメイドであり、物件毎に最適なコンポーネントを適切な量で採用する力が求められますが、特に適切な窓を選ぶにはそれなりのノウハウが必要です。
私の住宅設計では、基本的にアルミ・クラッド付きの木製サッシを採用しています。ガラスはLow-Eアルゴン入りのトリプルまたはペア。使用する地域や窓の付く方角によって使い分けています。クライアントの予算によって使用する窓の性能はまちまちですが、一つだけ絶対に守ることがあります。それは、“窓を付けた方が窓を付けなかった設計よりも省エネになるような窓の性能を担保すること“です。意味分かりますでしょうか? 南面に高性能な窓を取りつければ、窓からのエネルギー・ロスよりも、冬の日射による窓からのエネルギー・ゲインが上回ります。壁にするよりも、窓にした方がエネルギー効率が上がる、そんな設計が出来るようになったことは、建築家にとって大変うれしい事だと思いませんか。
(写真:アルミと十津川杉のハイブリッドで実現した高性能サッシ)

 

 

 

 

3.11以降、建築側の設備依存率を下げようというこれまで無い発想は消費者の間で急速に広まっています。この流れをもっと加速するためにも、出来るだけ多くの消費者の皆さんに輻射の概念を理解していただき、“真のエコハウス”を見抜く力を付けて頂きたいですね。
これからの未来を担う子供達にも、エコハウスのしくみを知ってもらいたいと思い、こんなしかけ絵本を翻訳しましたので、是非親子で一緒に読んでみてください・・・。
写真:パッシブハウスの絵本(いしづえ出版より発売予定))