今泉太爾氏コラム【エネルギーパス×窓】3一覧へもどる


(第3回)社団法人日本エネルギーパス協会の代表理事である今泉太爾氏は、エネルギーパスを広く一般に普及し、持続可能なまちづくりを目指すことを目的に活動をしています。特に「ドイツ」の環境政策に深く精通しており、日本への普及の橋渡し役として活躍しております。
エネルギーパスとは、EU全土で義務化されている「家の燃費」を表示する証明書です。「窓」は家の燃費を考える上でかかせない、非常に重要な部分です。
このコラムは、環境先進国として注目をうけるドイツのエネルギー戦略や法制度から見えてくる日本の住宅がこれから向かうべき未来について、窓の重要性と合わせて多くの方に知っていただきたい、そんな想いをこめた企画です。

 

【第三回】エネルギーパスとストック住宅の今後

超短命な日本の住宅事情

 日本で戦後に建てられた木造住宅の寿命は約30年、国土交通省の統計データでは26年とされています。色々な統計データがありますが、おおむね30年で建て替えられているのが一般的。では世界基準で見るとどうでしょうか?アメリカ60年、ドイツ80年、イギリス100年、日本の2〜3倍は当たり前。ちなみにドイツは80年ですが、統計上ですと第2次世界大戦で大半が焼失してしまったからだそうで、実際には築数百年で現役の建物が数多く存在しています。

 さて、ではなぜ日本の家だけこんなにも寿命が短いのでしょうか?答えは実にシンプル、長持ちするように造っていないからです。デザインやコストダウン、集客手法などの目先の物事ばかりに目が行ってしまい、長持ちするような設計や高耐久建材の開発・採用に取り組む業者は少数派。世界的に見てもまれなほど高温多湿な環境を持つ日本で、長持ちする家を造ろうと考えたら、それなりの手間とコストがかかります。しかし、長持ちさせる意味を顧客に説明することが難しいため、住宅の高耐久化に消極的です。反対に、家を安く作る事だけを考え、長持ちしない安い部材を使い、技術の未熟な職人に手間を削らせ、工期を詰めて造れば実現可能であり、安売りには説明も不要。残念なことに最近では初期コストは安いが短命な家造りが多く見受けられます。

日本では少子高齢化が進みいよいよ人口減少期に入り、住宅購入者が減少して需要が縮小しています。そんな中で短命なローコスト住宅が量産されると、需要と供給のバランスが崩れ、市場原理により地域全体で住宅価格が下がり続けます。これを古典経済学ではワルラス的調整と呼びます。住宅の高耐久性や省エネ性能などを犠牲にしたコストダウンと、行き過ぎた新築至上主義は、ほんの一握りの建設業者の利潤や住宅購入者の初期コスト低下のために、社会全体の住宅所有者の資産価値を犠牲にするという不合理な活動ともいえます。しかも当の本人も燃費やメンテ費用などのランニングコストで結局経済性も無いという落ちまでついているため、まさに「安物買いの銭失い」の代表といえます。

余談ですが、ヨーロッパでは数100年使える住まいが当たり前であり、次世代はリフォーム費用だけを負担する事で住居費を抑えることが一般的です。世界一勤勉とされている私たち日本人が、30年で無価値になる家にセッセとお金をつぎ込んでいる姿は、非常に滑稽に見えるのだそうです。?


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日本のストック住宅の対策

既存住宅の長寿命化及び性能向上には、耐震、省エネなどの建物の品質向上のためのリフォームが不可欠です。ところが日本においては、建物検査の仕組みが未整備の為、耐震性や維持管理を築年数で安易に評価しています。例えば木造住宅では30年で寿命と考えて、不動産価値評価を築年数で区切ってしまう考えが一般的。住まい手としては寿命の短い既存住宅への投資を躊躇してしまいます。そのため、耐震や断熱などの住宅品質向上のためのリフォームが思うように進んでいません。

住宅の寿命があと何年もつのかということを心配するのではなく、あと○○年間もたせるにはどこを直せばよいのか、というスタンスでリフォームを考える必要があります。

また、環境保護の観点から見ると、最低限度必要な「家の寿命」というものが見えてきます。一例を挙げると、日本の森林では木が柱などの家の構造材となるまで成長するのに、最低60年間以上はかかります。60年以上の年月をかけてようやく育った木材で建てた家を、たったの30年で壊して捨ててしまうというのは、資源の無駄遣いにほかなりません。

木材を再生可能な資源として最大限活用するため、また、持続可能性の観点からも、木造住宅の寿命は最低でも60年以上として大切に使っていくことが社会的に求められています。
限りある資源を大切に使い、出来るかぎり既存住宅を活用してリフォームしていく。どうしても新築する必要がある場合には、これからの社会に必要となる、インフラとして価値のある住宅、つまり高耐震、低燃費、高耐久な住宅(できればデザインも良く)だけを新築し、社会インフラとして次の世代へと継いでいく。「持続可能性」こそが、これからの家づくりの基本テーマではないでしょうか。

 

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今泉太爾氏 第4回 エネルギーパス×窓