今泉太爾氏コラム【エネルギーパス×窓】1一覧へもどる


社団法人日本エネルギーパス協会の代表理事である今泉太爾氏は、エネルギーパスを広く一般に普及し、持続可能なまちづくりを目指すことを目的に活動をしています。特に「ドイツ」の環境政策に深く精通しており、日本への普及の橋渡し役として活躍しております。
エネルギーパスとは、EU全土で義務化されている「家の燃費」を表示する証明書です。「窓」は家の燃費を考える上でかかせない、非常に重要な部分です。
このコラムは、環境先進国として注目をうけるドイツのエネルギー戦略や法制度から見えてくる日本の住宅がこれから向かうべき未来について、窓の重要性と合わせて多くの方に知っていただきたい、そんな想いをこめた企画です。

環境エネルギー先進国ドイツ

フクシマ原発事故の影響で、日本中がエネルギー不足に陥り、今では国民的にエネルギー問題が議論されています。
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの全量買い取り制度や、2022年までに脱原発などと、その議論の際に必ずと言ってよいほど登場する国が環境先進国と言われるヨーロッパの大国ドイツです。
ドイツでは京都議定書の規準年である1990比で2009年段階で既に25%のCO2削減を実現し、2020年には40%削減を予定しています。
しかも、経済成長率は年2〜3%の経済成長とCO2削減の両立を実現しており、今日本で議論されているような、「経済成長を目指すならCO2削減目標を下げなくては?」などという議論はドイツでは旧世代的なモノとなっています。

ドイツはいかにして環境先進国になったのか

世界最先端の環境先進国としてドイツが環境政策を進めている原因の一つとして、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故の影響が大きいようです。
この原発事故は政治にも大きなインパクトを与え、環境問題を最重要課題とする「緑の党」はチェルノブイリ後に躍進し、ドイツの重要な政党として、環境政策に大きな影響を与え続けています。
今やエネルギー消費の25%近くが再生可能エネルギーになり、発電量は既に原子力を上回っています。
他国の出来事であっても、国民が自分事ととらえて、政策に反映していくドイツの民度の高さには驚くばかりです。
他にも環境政策というよりは、化石燃料を海外から購入する量を減らす為、経済政策(海外に飛んでいく化石燃料費を設備投資として国内にまわす)および安全保障政策(中東等の政治不安定な地域へのエネルギー依存の脱却)として省エネ・再生可能エネルギー推進を推進してきたという面も有ります。

これからドイツが目指すところ

ドイツは先ほども述べた通り、京都議定書の規準年とされる1990年比で、2050年には95%削減を決めております。しかも、日本のようにアメリカや中国等の他国が削減するかどうかによって目標値を変えたりはしません。
この95%削減というのは世界で最も意欲的な目標であり、目標を実現する為には全業界全業種において全力で取り組まないととても実現出来ないようなものであるため、具体的にどこでどの位削減するかを細かく割り振って、10年スパンで各政策に落とし込まれています。
一方われらが日本では、残念ながら1990年比で年々CO2排出量を増やしております。そして2050年には80%削減を掲げてはいるものの、具体的な方法や中期目標は掲げておらず、空白となっております。当然、具体的な政策や道筋は示されていません。
長期、中期、短期で目標を掲げ、それを実現させる為の個別のアクションプランが無ければ、増え続けるCO2排出量の削減等出来るはずも無いのですが、残念ながら日本では超長期目標のみが存在するという状況です。

日本はドイツから何を吸収すればよいのか?

日本がドイツから何を学ぶべきかは、日本とドイツの主要な経済指標の比較を行うとおのずと見えてきます。
国民一人当たりのGDPは日本が4.6万ドル、ドイツが4.5万ドルとほぼ同程度、つまり国民一人当たりの個人能力はほぼ同程度です。
ところが、集団になるとそのパフォーマンスに歴然とした差が出てきます。
直近10年間の平均経済成長率は日本 ? 0.47%/年、ドイツ 2.73%/年。
そして一人当たり政府借金額も、日本 9.5万ドル/人、ドイツ 4.1万ドル/年と二倍以上の差となっています。
日本とドイツの差は国民の能力差ではなく、国家の運営システムの差といえます。
世界でも制度を作るのがトップクラスで巧いドイツと、どちらかといえば巧い方ではない日本、という制度設計力の差が見て取れます。
日本とドイツは同じ敗戦国であり、戦後一からの出発で経済発展を遂げ、現在はモノづくりで外貨を稼いでいる、一つ一つコツコツ取り組む真面目な国民性など共通点が多くあります。ドイツの制度を参考にすることで、日本でもドイツと同じような経済成長と環境負荷低減の両立を実現することは十分に可能ではないかと感じます。
実は、既にそのような動きは始まっており、2012 年7月からスタートした「再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度」(略称FIT)というものがあります。これはドイツで生まれ、世界50カ国以上で採用されている自然エネルギー普及促進制度です。再生可能エネルギーはドイツの政策をお手本にスタートしましたので、これから急速で進んでいくと思われます。

次は建築部門における省エネルギー政策である「エネルギーパス」を中心とした、建築物の熱需要抑制政策をお手本にしていくことが必要ではないでしょうか。

 

▽コラム第2回はこちら▽

今泉太爾氏 第2回 エネルギーパス×窓